ブロマイド額装のススメ

最近は声優さんの「オンラインサイン会」でいただいたブロマイドなどを額装するのに凝っています。とても楽しいのでぜひ挑戦してみてください。

作品をどう飾るかもまた作品です。一度経験してみると、写真展、絵画展などでもプリント(印刷)の出来映えや、額装のテクニックに注目が向くようになります。私が見てきた範囲では、アニメ・漫画関係では特に、イラストレーターさんの個展はとても参考になります。

以前ちょっとだけ写真を習っていたときも、写真は被写体(だけ)ではなく、テーマとプリントと額装、展示に目を向けなさいとよく言われたものです。

 

なぜマット額装するのか?

額装は、平面的な写真や絵画を、立体的で品格のあるインテリアに昇華させます。また、大事な作品をホコリやキズから守るという大切な役割があります。アルバムやブロマイドケースに収録した写真は「見る」たびに一手間かかりますが、作品を額装すればいつでも眺められるようになります。

ここで更に額装マット(マット)の出番です。マットは多くの場合、数ミリ厚の厚紙を長方形に窓抜きしたもので、窓から作品が覗けるようにセッティングして使用する画材です。美術館や絵画展、写真展の作品は、多くの場合、作品のサイズと同サイズ(同じ内寸)の額縁は使わず、マットを介して作品を額縁に固定します。なぜでしょうか。

マット額装は、作品の周辺に視覚上のクッションを設けることで独立した世界を作るとともに、作品を額縁の面材(ガラスやアクリル等のカバー)から浮かせて接触を防ぎます。作品を2枚のアクリル板で挟むなど、面材と作品のプリント面が直接、接するタイプの写真立てなどは、いっけん見栄えは良いですが、プリント面の素材によっては作品が面材に吸着してしまいます。湿度で作品が破損するおそれもあります。サイン入りブロマイドなどは、面材へのインクの色移りもありえます。

額装、マット額装は作品の保存と鑑賞を両立できます。ぜひ活用しましょう。また、既製品の額縁では適合サイズのない作品を飾るときにも、マットの併用が有効です。

まとめると、額装(マット額装)のメリットは次の通りです。

  1. 作品を豪華に見せる。
  2. 作品をキズ、ホコリ、湿度変化から守る。
  3. 作品と接触する素材による化学的な侵食(酸性紙など)から守る。
  4. (面材がアクリルの場合)作品を紫外線から守る。
  5. 吊り紐、スタンドなど作品を設置する手段の自由度を上げる。

 

何を買えばよいか?

購入するのは額縁と、窓抜きしたマットです。額縁の構造と飾り方によっては、追加で紐やフック、スタンド等が必要になることもあります。

作業に必要なものはメジャー、ホコリを飛ばすブロワー。指紋が付きやすい作品を扱うときは手袋もあった方がよいでしょう。写真用品店で買えます。ブロワーは、ノズルが分離したりしない、一体成形のものをお勧めします。複数の部品に分かれるタイプは、脱落したり勢いよく「発射」されたノズルが作品や面材に命中し、傷を付けてしまう恐れがあります。

その他、額縁からの部品の取り外しや、建て付けの微調整のために、ドライバーもあった方がよいです。

 

始めにお断りしておきますが、自分で額やマットを選んで購入するのには、それなりにお金がかかります。サービス判写真などをターゲットとした、最初から額とマットがセットになった商品は数百円~1,000円くらいから買えますが、好みのデザインが見つからなかったり、質感やマットのカット品質が微妙だったりと、悩ましいです。

特定のメーカーさんを悪く言いたいわけではないのでお名前は出しませんが、この種の商品は「安いものは、それなり」です。お金を出せば、ちゃんとした品質のものは手に入ります。安く済ませるなら、(お店で許されている範囲で)商品の状態をチェックして、できるだけ程度の良いものを選びましょう。

 

作品のサイズに対して、額装の予算はこんな感じです。

  • L判、ハガキ、2L判クラス…3,000円~
  • 六つ切、A4クラス…5,000円~
  • A3以上…1万円~

1,500円で買ったCDで当選させたサインを飾るのに3,000円、でも推しの写真が生活空間にあるとQoL高まるし、世界にたった1枚の自分に宛てたサインともなればプライスレス。推しは信仰。

 

私がよく利用しているのは「額縁のタカハシ」さんです。額縁とマットをセットで買うときの操作がわかりやすく、またなぜ額装が必要なのかといった基礎知識の解説なども充実しています。基本的にここを起点にし、希望のサイズとデザインが見つからなければ、他店を探すのがよいでしょう。

www.gakubuti.net

「マルニ額縁画材店」さんも、オンラインでの購入方法がわかりやすいです。タカハシさんはやや古風な、落ち着いたトーンの額縁が多いですが、マルニさんはややバリエーションが多めです。

www.art-maruni.com

画材の定番「世界堂」さんもよいでしょう。実店舗でサイズや質感を確認できるのがポイントです。マットは既製品のほか、カット販売もされています。

www.sekaido.co.jp

最初は額縁とマットを同じ店舗で購入することをお勧めします。慣れてきたら、画材店の実店舗やオンラインショップのセールなどで割安の額縁を探しつつ、マットのカットだけを上記のショップに依頼することも可能です。写真用品店や文具店で売られている小型の額縁は、マットを入れるには深さが足りないことが多いため、ご注意ください。

 

額縁の構造を知る

額縁は木やアルミ合金などで作られた枠に、表から順にアクリルまたはガラスのカバー(面材と呼ばれます)、マット、作品、厚み調整材、裏板をはめ込む構造となっています。それぞれに大小関係があります。額縁の「幅」やマットの見え幅は作品の印象を大きく左右します。ある程度以上のグレードの額縁のカタログには、断面図が付いています。よく見て慎重に検討しましょう。安価なものは買ってみるまで仕様の細部がわからないこともあります。

室内光を反射させず作品を「生」で見たい場合は、面材を背面に移動します。展示会や、作品の撮影時などではこのスタイルにすることも多いでしょう。キズやホコリには注意が必要です。

 

全体のサイズを決める

まず作品のサイズを元に、仕上がりの、マットの外寸を決めます。作品のサイズはメジャーで正確に計ってください。

マットの外寸は額縁の内寸に相当します。タカハシさんの場合、窓抜きサイズに対して、上下左右に最低20mmのマット幅が必要です。窓抜きサイズは後述の通り、作品の幅に対して四辺を各々マイナス3~5mmしたサイズです。額縁は通常、内側に少し覆い被さる構造になっているため、仮にマット幅が20mmだとして、額縁の内側への「かかり」が5mmだとすると、表から見えるマット幅は15mmになります。

最低幅を確保したとして、それ以上をどうするかは表現の意図や好みの世界になります。狭すぎるマットは窮屈に、広すぎるマットは空虚に見えます。縦横のマット幅は均等な方がスッキリしますが、「作品に対して均等に大きい」額縁は特注でない限り、めったに存在しません。長手方向に余計に長い分には、あまり気にならないことが多いです。他人の作例をよく見て、自分なりのバランスを見つけてください。定番とされる比率も存在しますが、まずは自分が気持ちいいと思える比率で良いと思います。

私がよく選ぶ、作品サイズと仕上がりサイズの組み合わせはこんな感じ。特注するならこの限りではありません。L判以下は額縁の選択肢がやや少ないです。

  • L判ブロマイド(89×127mm)→2L(127x178mm)、A5(149×211mm)
  • ハガキ(100×148mm)→A5(149×211mm)
  • 2L判ブロマイド(127×178mm)→8x10インチ(203×258mm)
  • CDジャケット(120×120mm)→200角(200×200mm)
  • A4(210x297)→太子(288x379)

額縁の内寸とマットの外寸が同じサイズだと、着脱に支障が出るように思われるかもしれませんが、タカハシさんやマルニさんで購入した経験からは、同じサイズを指定してもマットの外寸は1mmほど小さくカットしてくれるので、気にしなくて大丈夫です。心配なら問い合せてみましょう。

 

額縁の色とデザインを決める

次に額縁を選びます。額縁、マット、作品のトータルコーディネートをイメージしましょう。ブロマイドやハガキなどの小さい作品は、派手な額縁だと主客が逆転してしまうことがあるので注意が必要です。細身のシルバー額と白色マットは、多くの作品にマッチする最も無難な組み合わせでしょう。木目調の額も定番です。

作品に厚みがある場合、通常の写真額、デッサン額では収まらない場合があります。額縁の断面図を見て確認してください。内部に奥行きのある額は、厚みのある作品や立体物を飾るほか、チェキなどの小型の写真を豪華に見せることもできるでしょう。

額縁の素材が本物の木の場合、塗装の彩度は控えめになります。言い換えれば落ち着いた雰囲気になります。素材の風合いを活かすか、白または黒の塗装を選ぶことで、木製額のメリットを活かせるでしょう。

額縁とマットの色のチョイスは全く感性で決めてもよいのですが、例えばこんな指針が考えられます。

  • アーティストカラー
  • ライブやイベントのコンセプトカラー
  • 作品に現された季節感や温度感、表情、衣装から連想される色
  • 真っ白または真っ黒で作品と周辺の空間とを切り離す

こうして見ると、作品や被写体をよく観察しなければならないことが、おわかりになるかと思います。推しへの理解なのでここは頑張りましょう。もちろん、自分の生活空間に置いたときにどう感じられるか?で選ぶのもアリです。

 

マットを選ぶ

次にマットを選びます。マットで選ぶのは基本的に「色」、次いで「表面の質感」です。純白ではコントラストが付きすぎると思われる作品に対しては、クリーム色や薄紫を選ぶのも手です。黒色のマットを選ぶときには、断面も黒く塗られたマット(タカハシさんでいうカラーコア)も検討してみてください。派手な色や柄付きのマットは使いどころが難しいですが、サイン色紙など、作品自体が無地の場合に効果的です。表面の質感は、フラットなものと軽いエンボスの付いたものから選べます。フラットは非常に綺麗ですが、ちょっとした傷が目立ちやすいので扱いに注意が必要になります。

マットの「窓抜き」のサイズは、作品のサイズに対して決まります。窓抜きは斜め45°にカットされて、作品の周囲に覆い被さる形になります。被せが狭すぎると、作品をうまく固定できなくなります。被せ幅は、作品がL版からA5くらいまでなら各辺最低3ミリ、A4までなら4ミリ、A4以上なら5ミリといったところです。注文時の寸法としては、窓の内寸の方を指定する形になります。

作品の周辺部のデザインに応じて被せの幅を微調整することもあります。縁取りのある作品、余白付き印刷の作品は、作品自体の周辺部を見せるのか完全に隠すのかで判断が分かれます。マット額装では作品の端の端は見えなくなります。

 

作品固定用の画材を用意する

作品をマットに固定するときには、ミューズのピタックが定番です。作品自体にシールを接触させずに固定することができます。ピタックは各種通販や世界堂などで箱で買えますが、量が多すぎるので、画材屋さんによってはばら売りしてくれます。作品がA4未満なら30ミリ、A4以上なら50ミリが目安です。

webshop.sekaido.co.jp

思い切って額装用のテープで固定しても良いかもしれませんが、作品に写真印画紙くらいの強度があれば、B4程度までなら、ピタックで困ることはあまりないと思います。薄手で大きな作品や、手焼きしたフイルム写真、書道作品などの「たわみ」が気になるなら、裏打ちを検討する必要があるでしょう。

www.gakubuti.net

実演~商品の購入から額装まで

それでは実際に、ハガキサイズの写真を額装するときの手順を、額縁のタカハシさんを例に説明します。

 

作品のサイズを計る

「サービス判」などの通称にはバリエーションがあります。必ず作品の現物のサイズを計りましょう。今回は写真屋さんのプリント機で「KG判」を指定して印刷したもので、作品のサイズは102×152mmでした。

この時点でマットの窓抜きサイズも決まります。窓抜きサイズは作品サイズに対して、四辺を3~5mmずつ内側に寄せたサイズです。今回は被せは4mmにしましょう。すると、102-(4x2)×152-(4x2)で窓抜きサイズは94×144mmになります。

額縁のサイズを決める

額縁のタカハシさんのサイトに、作品サイズとマットの窓抜きサイズを入力して、額縁の適正なサイズを見つけてください。規格サイズで好みのものがなければ、「写真額」「立体額」などから、近いものを探します。特注も可能ですが、あまり小さいサイズは作ってくれないようです。

 

額縁を選ぶ

額縁のサイズを決めると、そのサイズでラインナップされている額縁が一覧表示されるので、好みのものを選びましょう。今回はシルバーの細枠で、比較的安価な「クーベ」を選ぶことにしました。

額縁の色とサイズ感をチェックし決定する

額縁の見本色と詳細な寸法をここで確認できます。この「クーペ」は内側への「かかり」は8mmの幅があり、カバー、作品、厚み調節材、裏蓋を合わせて9mmまで収められることがわかります。この「額購入」のタイミングで、額縁のモデルと色、カバーの材質(ガラスまたはアクリル。選択肢がない場合もある)まで決定します。マットの色も選べるように見えますが、マットの色は見栄えチェックの参考用で、ここではまだ購入とはなりません。価格にも含まれていません。

マットを選ぶ

額縁のタカハシさんでは、マットが付属しない額縁を購入しようとすると、マットの追加購入の選択肢が表示されます。ここで「マットを選択する」を選ぶと、先ほど入力したマットの外寸、窓抜きサイズの値を維持したまま、マットの選択画面に進むことができます。サイトメニューから入ることもできます。

寸法を確認してマットの色を選び、カートに入れます。あとは購入するだけですが、ピタックを持っていない場合は、サイト内検索で「ピタック」を検索してカートに追加してください。

マットに作品を固定する

額縁とマットが届いたら、まずは作品とマットを並べて観察し、「被せ」の幅を再確認します。基本は中央寄せです。作品の周辺部に写っているものやデザインによっては、少しだけ特定の方向に寄せます。

マットを汚さないように注意しながら、2枚(頂点2箇所分)だけピタックを貼り付けます。作品の厚みにもよりますが、マットの裏面から見て、作品への「被せ」幅+3mm程度の位置にピタックの接着面が来るようにします。今回は被せ幅が4mmなので、ピタックの位置は窓から7mmにしました。

マットとピタックの間に作品を挟み込みます。

表から見る、光に透かすなどして見た目を確認しながら、作品の位置を微調整します。よいと思ったら、残り2つのピタックも貼り、最終的な位置合わせを行います。


額縁に装着する

ホコリの混入に注意しながら、面材、作品を固定したマット、厚み調整材、裏板を重ね合わせます。マットの厚みが増える都合上、厚み調整材は余る場合があります。

一連の部材を額縁にセットします。このとき、部材をスライドさせて装着するタイプの額縁の場合、全部を一度に挿入するのではなく、裏板だけを後回しにすることをお勧めします。額縁の厚みに対して部材の合計厚がギリギリの場合、挿入時に額で面材を傷付けてしまうおそれがあるからです。まず裏板以外の部材を奥まで挿入し、次いで裏板を挿入することで、これを避けることができます。厚み調整材で丁度良い厚みにできない場合は、少し薄めの組み合わせにしておいて、後で裏板側から額と裏板の間に紙片を挟むなどの対策を施してください。

これで完成です。

写真は閉業前日のヴィーナスフォートです。